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【ケーススタディ:アクセラ運営】応募が来ない、事業部が動かない。地方製造業の初アクセラ立て直しの6ヶ月

地方の中堅製造業A社の経営企画部の担当者が、初めてのアクセラレーションプログラムで「応募が来ない」「事業部が動かない」状況から立て直すまでの約6ヶ月を、モデルケースとしてまとめました。

【ケーススタディ:アクセラ運営】応募が来ない、事業部が動かない。地方製造業の初アクセラ立て直しの6ヶ月

Key pointsこの記事の要点

  • アクセラレーションプログラムの募集テーマは、広く取るほど応募者が迷う。現場の課題の言葉で書く。
  • 事業部が動かない原因は評価の仕組みにあることが多く、課題を預かる形にして経営層に話を通す。
  • 審査では点数より先に「いつ、誰が試すか」を確認し、契約待ちの期間は検証ゴールの合意に使う。
この記事について

この記事は、新規事業やイベントの現場でよくある状況をもとに構成したモデルケースです。登場する企業・人物は、特定の企業や個人ではありません。

アクセラレーションプログラムの準備ガイドを読むと、「募集テーマは事業部の課題の言葉で書く」「審査基準は先に決める」といった手順が並んでいます。どれも正しいのですが、実際に担当になってみると、分かっていたはずのことに、つまずいてから気づくのが現場の常です。

この記事では、地方の中堅製造業「A社」の経営企画部の担当者が、初めてのアクセラレーションプログラムを立ち上げ、「応募が集まらない」「事業部が乗ってこない」という状態から立て直していくまでの約6ヶ月を、物語としてたどります。

社内でプログラムの担当になった方や、これから企画を始める方に向けて、どこでつまずき、何に気づき、何を変えたのかを具体的にお伝えします。要所には、このケースから一般化できる学びを「このケースから学べること」としてまとめました。

ケースの概要

項目 内容
会社 A社
業種・規模 地方都市に本社と2つの工場をもつ金属加工部品メーカー。従業員は約1,200名
担当者の立場 経営企画部の佐藤さん(入社12年目。工場の生産管理から2年前に異動)
目的 中期経営計画に掲げた「新しい事業の種づくり」の一環として、スタートアップとの協業を始める
期間 企画開始からデモデイまで約6ヶ月
体制 事務局は佐藤さんと後輩の木村さんの2名(いずれも他業務と兼務)。上司は経営企画部長の中村さん

1ヶ月目:社長の一言と、広すぎるテーマ

始まりは、新年度の経営会議での社長の一言でした。「他社のデモデイを見てきた。うちも、スタートアップと何かやるべきだ」。

その場で担当に指名されたのが、経営企画部の佐藤さんです。工場の生産管理を長く経験してきた佐藤さんにとって、スタートアップは縁遠い存在でした。手元にあったのは、社長が持ち帰ったパンフレットと、上期分として確保された限られた予算だけです。

佐藤さんは、まず他社の募集ページを何十件も読み込みました。そして、それらを参考に募集テーマを「ものづくり×デジタルで、地域の未来をつくる」と決めます。対象領域は、製造、物流、環境、人材と幅広くとりました。「間口を広げたほうが、応募は集まるはずだ」と考えたからです。

事業部には、部長会のあとにメールを1通送りました。

「このたび、スタートアップとの協業プログラムを開催します。つきましては、審査員としてのご協力をお願いできれば幸いです。」

返信は、2つの事業部のうち1つから「承知しました」の一言だけ。佐藤さんは少し引っかかりながらも、準備に追われてそのまま募集を始めました。プレスリリースを出し、地元紙にも小さく載りました。社内では「いよいよ始まったね」と声をかけられ、滑り出しは悪くないように見えました。

2ヶ月目:応募4件、しかも半分はテーマ外

募集開始から3週間。応募フォームに届いたのは、わずか4件でした。しかもそのうち2件は、飲食店向けの予約アプリと、学生向けの就職支援サービス。A社の事業とは結びつきそうにありません。

佐藤さんは、締切を1ヶ月延ばす案を中村部長に相談しました。中村部長の返事は短いものでした。「延ばせば増えるのか。増えない理由が分かっていないなら、延ばしても同じだろう」。

途方に暮れた佐藤さんは、大学時代の友人の紹介で知り合った、知人のVCに連絡をとります。募集ページを見せると、相手は数分スクロールしただけでこう言いました。

「正直に言うと、これを見ても誰と話せて、何が試せるのかが分からないんです。スタートアップから見ると、地方の部品メーカーと組むメリットが一行も書いていない。工場があるなら、それがいちばんの売りなのに」

佐藤さんは、はっとしました。自分たちが当たり前だと思っていた「工場の現場」こそが、スタートアップにとっては手に入りにくい実証の場だったのです。

2ヶ月目:「スタートアップと遊んでいる余裕はない」

工場の現場事務所で、経営企画部の担当者がホワイトボードの前に立ち、腕を組んだ現場リーダーに困りごとを付箋に書き出してもらっている様子

同じ頃、もう1つの問題が表に出ます。精密加工事業部の山本事業部長との打ち合わせでのことです。

「佐藤くん、悪いけど、うちは今、受注の対応で手一杯なんだ。スタートアップと遊んでいる余裕はないよ」

審査員の件で返信がなかったのは、山本事業部長の事業部でした。佐藤さんは何も言い返せず、会議室を出ました。

その夜、佐藤さんは、かつての職場である第一工場に足を運びます。製造課長の井上さんは、生産管理時代からの付き合いです。缶コーヒーを片手に事情を話すと、井上課長は苦笑いしながら言いました。

「山本さんは、反対しているわけじゃないと思うよ。ただ、事業部の目標には一行も入っていないことに、部下の時間を使わせるわけにいかないんだ。うまくいっても評価されないし、失敗したら『本業をおろそかにした』と言われる」

そして、井上課長はこう続けました。「それより、現場には困りごとが山ほどある。ベテランが目で見ている外観検査とか、人によってばらばらな段取り替えとか。あれを何とかしてくれる会社がいるなら、俺は会ってみたいね」

佐藤さんはここで、2つ目のつまずきに気づきます。事務局の企画に「協力してください」とお願いする形になっていたことです。事業部から見れば、これは仕事が増えるだけの話でした。

3ヶ月目:募集を「現場の課題」から作り直す

佐藤さんは、中村部長と一緒に社長のもとへ向かいました。お願いしたのは2つです。1つは、このプログラムでのPoCを、事業部の改善活動の成果として扱うこと。もう1つは、PoCの費用を事業部ではなく経営企画部の予算から出すこと。社長は少し考えてから、「それでやってみよう。部長会では私から話す」と答えました。

次の部長会で社長が話したあと、山本事業部長は佐藤さんを呼び止めました。「井上のところの課題でやるなら、あいつを担当にしていい」。

ここから、募集の作り直しが始まります。佐藤さんは、締切を延ばすのではなく、いったん募集を締め、テーマを書き換えて2次募集をすることにしました。変えたのは、次のような点です。

項目 最初の募集 作り直した募集
テーマ ものづくり×デジタルで、地域の未来をつくる 第一工場の3つの現場課題(外観検査、段取り替え、図面の検索)
試せること 記載なし 実際の生産ラインでの試行、過去の検査画像の提供(条件あり)
話せる相手 「事業部の担当者」 製造課長・井上の名前と顔写真、本人のコメント
対象外 記載なし 「一般消費者向けのサービスは今回の対象外です」
応募前の接点 オンライン説明会のみ 工場見学会(月2回)を追加

告知のやり方も変えました。知人のVCや、地元の支援機関の担当者の小林さんに、テーマに合いそうなスタートアップの紹介を頼みました。加えて、佐藤さんと木村さんで候補を約40社リストアップし、一社ずつメールを送りました。

最初の数通は、「御社の優れた技術に関心をもっています」という書き出しでした。返信はゼロ。そこで書き出しを変えます。

「当社の第一工場では、ベテラン2名が1日におよそ3,000個の部品を目で検査しています。この工程で、御社の技術を試していただけないでしょうか。」

この書き方に変えてから、返信が目に見えて増えました。

想定外だったのは、工場見学会です。オンライン説明会の参加は毎回数社でしたが、工場見学会には、遠方から新幹線で来るスタートアップもいました。ある企業の代表は、検査工程の前で30分も立ち止まり、帰り際にこう言いました。「この現場を見られるなら、応募しない理由がありません」。

2次募集の応募は23件。そのうち20件が、3つの課題のどれかに沿った提案でした。

4ヶ月目:審査会で割れた、社長と現場の意見

書類審査で8社に絞り、面談審査に進みました。審査員は、社長、山本事業部長、井上課長、中村部長の4名です。

議論が割れたのは、外観検査の課題に応募した2社でした。1社は、画像認識の技術で注目を集め、大きな資金調達を終えたばかりの企業。ピッチも見事で、社長は「ここしかない」と身を乗り出しました。もう1社は、社員5名ほどの小さな会社で、ピッチはたどたどしいものの、工場見学会に2回も足を運んでいました。

「現場で一緒にやれるのは、こっちだと思います」と井上課長が言うと、会議室の空気が少し張りつめました。

佐藤さんは、ここで3つ目のつまずきに気づきます。「何を満たせば採択か」という必須条件を決めていなかったのです。評価シートには、事業性や技術力の点数欄はありましたが、それだけでは「どちらが優れているか」の議論にしかなりません。

佐藤さんは休憩をはさみ、両社に同じ質問をメールで送りました。「採択された場合、3ヶ月以内に第一工場で試行を始められますか。御社側の担当者はどなたになりますか」。

翌日届いた返事で、状況ははっきりしました。注目の企業は「大手企業との案件が重なっており、本格的な対応は来年度からになります」。小さな会社は、代表自らが担当し、翌月から週1回工場に来られると答えました。

社長は返事を読んで、「なるほど、それなら仕方ない」と笑いました。最終的に、外観検査、段取り替え、図面の検索の課題ごとに1社ずつ、計3社を採択しました。注目の企業には、来年度にあらためて相談したいと丁寧に伝えています。

5ヶ月目:契約待ちの3週間と、現場での打ち合わせ

製造ラインの横で、スタートアップの2人がタブレットのデータを見せ、作業服の担当者が機械を指さしながら説明している様子

採択の連絡を終え、さあ始めようというところで、4つ目のつまずきが待っていました。秘密保持契約(NDA)です。

A社では、法務は総務部の兼務で、スタートアップとの契約は前例がありませんでした。担当者は慎重に条文を確認し、さらに検査画像を社外に渡す件では、情報システム部門の確認も必要になりました。気づけば3週間が過ぎていました。スタートアップの1社からは、「御社のペースに合わせますが、正直、少し不安です」というメールが届きます。

佐藤さんは、ここで考え方を変えました。契約が終わるまで待つのではなく、契約がなくてもできることを先に進めることにしたのです。

  • 3社それぞれに、井上課長の案内で工場の見学をもう一度行う(公開している範囲のみ)
  • 課題の背景や、いまの作業手順を口頭で説明する
  • PoCで「何が分かれば次に進むか」を、両社で話し合って紙1枚にまとめる

同時に、総務部の担当者と一緒に、今後のための簡単なNDAとPoC契約のひな形をつくり始めました。

契約が整ってからは、定例の打ち合わせを会議室ではなく工場の休憩室で開くようにしました。段取り替えの課題に取り組んだ会社は、作業者の動きを実際に見て、記録アプリの入力画面を3日で作り直してきました。それを見た作業者の一人が、「これなら手袋のままでも押せる」とつぶやいたことを、井上課長は嬉しそうに佐藤さんに話しました。

6ヶ月目:デモデイと、その翌週に起きたこと

デモデイは、本社の大会議室で開きました。社員と、取引先、地元の金融機関や支援機関の方々を招き、オンラインでも配信しました。

佐藤さんが登壇の形として選んだのは、スタートアップの代表と井上課長が一緒に発表することです。井上課長は最初、「人前で話すのは苦手だ」と渋りましたが、最後は引き受けてくれました。

井上課長は、マイクを持つとこう切り出しました。「正直に言うと、最初は面倒だと思っていました。でも、この3ヶ月で、ベテラン2人の検査の『勘』が、少しずつ言葉になってきています」。会場の後ろのほうで、山本事業部長が腕を組んだまま、何度もうなずいていました。

本当の変化は、翌週に起きました。山本事業部長から佐藤さんに電話があったのです。「第二工場でも、同じ検査の課題があるんだ。あの会社と、うちの工場でも試せないか」。半年前に「遊んでいる余裕はない」と言った人からの依頼でした。

最終的に、3社のうち2社がPoCの次の段階へ進むことになりました。図面の検索の課題に取り組んだ1社は、既存システムとのつなぎ込みに想定以上の費用がかかることが分かり、今回は見送りとしました。その理由も記録に残し、次回のテーマづくりに生かすことにしています。

もう1つ、想定外の出来事がありました。配信を見た取引先の担当者から、「うちでも同じ悩みがある。話を聞かせてほしい」という連絡が届いたのです。プログラムが、社外との新しい会話のきっかけにもなりました。

振り返り:うまくいったこと・うまくいかなかったこと

場面 うまくいったこと うまくいかなかったこと・次回への課題
企画 社長の発案で、予算と位置づけが早く決まった テーマを事務局だけで決め、広く書きすぎた
社内の巻き込み 事業部の改善活動として扱い、PoCの費用を経営企画部が持つ形にした 最初に事業部へ「審査員のお願い」しかしていなかった
募集 現場の課題、担当者の顔、対象外を明記して作り直した。工場見学会が効いた 1次募集の約1ヶ月を、ほぼ空振りで使ってしまった
審査 「いつ、誰が試すか」を確認し、協業が進む相手を選べた 必須条件を事前に決めておらず、審査会で議論が割れた
契約・メンタリング 契約待ちの間に、検証のゴールを合意できた。工場での打ち合わせが効いた NDAに3週間かかった。ひな形は開催前に用意すべきだった
デモデイ・その後 現場の課長と共同で登壇し、他の事業部からの依頼につながった 見送りになった1社の課題は、費用面を早めに確認しておけば防げた可能性がある

自社で取り組むときのチェックリスト

  • 募集テーマを、事業部の現場の課題の言葉で書いているか
  • 「自社で試せること」と「話せる相手の名前」を募集ページに載せているか
  • 対象外とするものを明記しているか
  • 事業部が関わった時間が、事業部の成果として認められる仕組みがあるか
  • PoCの費用をどこが出すのか、開催前に決めているか
  • 審査の前に「いつから、誰が、どこで試すか」を確認する必須条件を決めているか
  • NDAとPoC契約のひな形を、募集前に法務と用意しているか
  • デモデイで、事業部の担当者が一緒に登壇する段取りになっているか

まとめ

  • 広いテーマは応募を増やすのではなく、応募の迷いを増やす。現場の課題で書く
  • 応募が少ないときは、告知を増やす前に「試せる現場」が伝わっているかを見直す
  • 事業部の「忙しい」は、評価の仕組みの問題であることが多い。課題を預かる形にし、経営層に話を通す
  • 地方の会社は、工場見学のように「現場を開くこと」が強い武器になる
  • 審査では、点数より先に「いつ、誰が試すか」を確認する
  • 契約待ちの時間は、検証のゴールの合意に使う
  • デモデイは、スタートアップと現場の担当者が一緒に話す場にする

このケースのように、プログラムを立ち上げたものの応募や社内の巻き込みで行き詰まっている場合は、DADAにお気軽にご相談ください。募集の設計から事務局の運営、デモデイの開催まで、状況に合わせてご支援しています。

Written & edited byDADA Insights 編集部(株式会社DADA)

スタートアップイベントの企画・運営、新規事業のPoC、BtoBマーケティングを支援する株式会社DADAが編集・発行しています。記事の内容についてのご質問はお問い合わせから、会社の情報は会社概要をご覧ください。

公開 2026.09.08 / 最終更新 2026.10.31

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