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【ケーススタディ:展示会のリード育成】段ボールに眠る名刺を商談へ。産業機械メーカーE社の展示会改革

産業機械メーカーE社の営業企画担当が、放置されていた展示会の名刺を商談につなげる流れを、営業部門との摩擦を乗り越えながらつくっていくモデルケースです。つまずきと学びを時系列で紹介します。

【ケーススタディ:展示会のリード育成】段ボールに眠る名刺を商談へ。産業機械メーカーE社の展示会改革

Key pointsこの記事の要点

  • 展示会の名刺を商談につなげる仕組みは、眠っている名刺で小さく試し、事実を見せてから提案する。
  • リードの基準は営業の過去の「当たりの商談」から逆算してつくり、当日のランクは翌日に営業と付け直す。
  • 成果は展示会の数ヶ月後にもう一度測り、営業担当者ごとの「自分の商談」として返す。
この記事について

この記事は、新規事業やイベントの現場でよくある状況をもとに構成したモデルケースです。登場する企業・人物は、特定の企業や個人ではありません。

展示会の名刺を商談につなげる方法は、ノウハウとしてはある程度知られています。名刺をランク分けする、お礼メールを早く送る、営業への渡し方を決める。頭では分かっていても、実際に社内で動かそうとすると、思わぬところで止まってしまうものです。

止まる原因の多くは、仕組みではなく人と人のあいだにあります。この記事では、産業機械メーカー「E社」の営業企画担当が、そうした摩擦に一つずつ向き合いながら、展示会の名刺を商談につなげる流れをつくっていく様子を、物語として追いかけます。

展示会のフォローを見直したいけれど、営業部門をどう巻き込めばよいか迷っている。そんな担当者に向けた記事です。

ケースの概要

項目 内容
会社 E社
業種・規模・商材 産業機械メーカー。従業員約300名。食品工場向けの充填機・包装機を製造。1台あたりの価格が高く、検討から導入まで1年以上かかることも多い
担当者の立場 営業企画課の中村さん(入社8年目)。営業資料や展示会の準備を担当してきたが、名刺のその後には関わっていなかった
課題 毎年出展している業界の展示会で1,000枚を超える名刺が集まるのに、ほとんどが放置され、商談につながっていない
期間 次の展示会までの約4ヶ月で準備し、会期後の約5ヶ月で成果を確かめた
体制 中村さんと、営業企画課の後輩1名。営業部(部長と営業担当者8名)の協力を得ながら進めた

段ボール箱に眠っていた1,200枚の名刺(6月)

6月、倉庫の片付けをしていた中村さんは、古いカタログの山の奥で、ガムテープで閉じられた段ボール箱を見つけます。側面には、マジックで「展示会 名刺」とだけ書かれていました。

開けてみると、輪ゴムでまとめられた名刺の束がぎっしり詰まっていました。数えると約1,200枚。前年の展示会で集めたものです。表計算のファイルに入力されていたのは、最初の300枚ほどで止まっていました。

営業に聞くと、答えはだいたい同じでした。「見込みのありそうな名刺は、その場で抜いて自分で持っている」「残りは、誰かが入力すると思っていた」。展示会がきっかけだと記録された商談は、前年度に数件しかありませんでした。

営業部の岡田部長に報告すると、こう返されました。「10月にまた出展する。今度は名刺を無駄にしない形を考えてくれないか」。期間は約4ヶ月です。

中村さんが最初にしたのは、新しい計画を書くことではありませんでした。段ボール箱の名刺を、使ってみることにしたのです。後輩と2週間かけて全員分を入力し、届きそうな約950件に「昨年の展示会ではありがとうございました。その後、設備の更新についてご検討はいかがでしょうか」という短いメールを送りました。

返信は11件。そのうち3件は「ちょうど相談したかった」という内容でした。

「そんなリストはいらない」——営業会議での反発(7月)

営業会議で、営業企画担当がスクリーンの前で説明し、腕を組んだベテラン営業の1人が手を挙げて反論している様子

7月の営業会議で、中村さんは計画を発表しました。名刺をA・B・Cにランク分けし、AとBは営業が電話でフォローする。Cはメールで情報を送り続ける。資料には、まだ検討中だったMAの画面イメージまで入れていました。

説明が終わると、営業歴25年の田島さんが腕を組んだまま言いました。

「展示会の名刺なんて、ノベルティ目当てがほとんどだよ。そんなリストはいらない。電話をかける時間があったら、既存のお客さんを回りたい」

何人かの営業がうなずき、岡田部長もその場ではどちらとも言いませんでした。

これが一つ目のつまずきです。中村さんは、名刺を「漏れなくフォローする」ことを正しいと考えていました。でも、営業から見れば、それは数百件の電話という宿題が増えることでした。Bランクまで営業に渡す計画は、営業の時間を考えていなかったのです。

会議のあと、中村さんは田島さんに30分だけ時間をもらい、質問をしに行きました。「これまでで、展示会がきっかけで決まった商談はありますか。それは、どんな人でしたか」

田島さんは少し考えてから、数年前の案件を話してくれました。ブースで話した工場長が「今のラインは導入から15年。そろそろ部品が手に入らなくなる」とこぼした。その一言を覚えていて、半年後に連絡したら見積もりの依頼になった、と。「結局、機械の更新時期が見えている人だけなんだよ」

この言葉が、ランク分けの基準になりました。さらに中村さんは、段ボール箱の名刺から相談が来た3件のうち1件が、田島さんの担当エリアの工場だったことを伝えました。田島さんはその日のうちに先方に電話を入れ、翌月の訪問が決まりました。

ブースで聞く「ひとこと」を決める(8月)

8月、中村さんは田島さんたちの話をもとに、ランクの基準をつくり直しました。営業が個別にフォローするのはAだけにし、Bはまずメールで育成することにしました。

ランク 基準(営業の言葉で) 対応
A 今の機械の更新時期が2年以内に見えている。または、具体的な見積もりや工場見学の話が出た 会期の翌週までに担当営業が電話する
B 更新時期はまだ先、または分からない。ただし自社の工場に当てはめた質問があった 営業企画がメールで育成し、反応を見て営業に渡す
C 情報収集や、ほかのブースのついでに立ち寄った 定期的な情報提供で関係を保つ
対象外 同業者、取引先の営業、学生など 育成の対象から外す

名刺へのメモは、右上に記号で書くルールにしました。ランクの文字に加えて、更新時期が分かれば「更」、見積もりの話が出れば「見」と書きます。

ところが、ここで二つ目のつまずきが起きました。展示会の2週間前、ブースに立つスタッフで練習会を開いたときのことです。来場者役の先輩を前に、入社2年目の小野さんが言いました。

「御社の機械の更新時期は、いつ頃でしょうか」

来場者役の先輩は苦笑いしました。「初対面でそれを聞かれたら、身構えるよ」。基準は営業の言葉でつくれたのに、それを聞く言葉までは用意できていなかったのです。

練習会のあと、田島さんがぽつりと言いました。「俺は更新時期なんて聞かないよ。『今の機械、何年くらい使ってます?』って聞くだけ。そうすると、向こうから勝手に話してくれる」

中村さんはこの言い回しをそのまま採用しました。スタッフに配るカードには、質問の一覧ではなく「話のきっかけ」を3つだけ書きました。「今の機械は何年目ですか」「最近、止まって困ったことはありますか」「ラインで、人手がいちばんかかっている工程はどこですか」。

お礼メールの差出人をめぐる議論(9月)

展示会の準備が進む中で、もう一つの議論が起きました。お礼メールの差出人です。

中村さんは、ブースで名刺を受け取ったスタッフの名前で送りたいと考えていました。

これに反対したのは、またしても田島さんでした。

「自分の名前で、知らないうちに何百通もメールが出るのは困る。返信が来たらどうするんだ。俺は出張も多いし、すぐには返せない。返事が遅れたら、かえって印象が悪くなる」

もっともな指摘でした。中村さんは、返信が来たあとのことを考えていなかったのです。

話し合いの結果、次のように決まりました。

  • 差出人はブースで話したスタッフの名前にする。ただし、Aランクの人には営業本人が個別に書く
  • 一斉配信の返信は、営業企画の共有の受信箱に届くようにし、中村さんたちが毎朝確認する
  • 返信があったら、1営業日以内に担当営業へ内容を添えて連絡する。営業が対応できないときは、中村さんが一次返信をする

田島さんは文面を読んで、一か所だけ直しました。「『ご検討ください』じゃなくて、『また機械の話を聞かせてください』にしてくれ。俺はそういう言い方はしない」

展示会の3日間と、ランクの「付け直し会」(10月)

展示会初日の夜、ブース裏の小さなスペースで、スタッフ4人が名刺を3つのトレーに並べ直しながら話し合っている様子

10月、展示会が始まりました。E社は今回、例年のノベルティの抽選会をやめ、話のできる人と出会うほうを選んでいました。

初日の夕方、小さな問題が起きました。会期中は毎日、閉場後に名刺をすべてスキャンするルールにしていましたが、田島さんの名刺が十数枚足りません。聞いてみると、上着の内ポケットに入っていました。「これは俺の客だから」。中村さんは、原本は持っていてよいのでスキャンだけさせてほしいと伝えました。2日目からは、田島さんが自分で名刺を出してくれました。

3日間で集まった名刺は820枚。前年より4割ほど少ない数です。

ところが集計すると、Aランクの名刺が214枚もありました。全体の4分の1を超え、営業が翌週までに電話できる数ではありません。

これが三つ目のつまずきでした。Aをつけていたのは主に若手で、会話が盛り上がった相手につい高いランクをつけていたのです。小野さんは正直に話してくれました。「せっかく話を聞いてくれたので、Cにするのが申し訳なくて」

中村さんは会期の翌日、ブースに立ったスタッフと営業を集めて、1時間の「付け直し会」を開きました。Aの名刺を机に並べ、「更」か「見」の記号があるか、その根拠となる会話を本人が説明できるかを一枚ずつ確かめていきます。最終的にAは46枚、Bは230枚、Cは480枚、対象外は64枚になりました。

付け直し会には、思わぬ効果もありました。若手が名刺を手に会話の中身を説明するのを、営業が横で聞いています。「その工場なら、去年うちの別の担当が行ってるはずだ」。名刺の束が、初めて営業の会話の材料になった瞬間でした。

Aの46件には、担当営業が翌週までに電話をかけました。会期から1ヶ月の時点で、商談は17件。前年の実績を、すでに大きく上回っていました。

「まだ早い」と戻ってきた名刺(11月〜1月)

一方で、Aの46件のうち19件は、営業から「まだ早い」と戻ってきました。電話はつながったものの、具体的な検討にはなっていなかったのです。

中村さんは最初、落ち込みました。ところが一覧を見ているうちに、営業が書き添えたメモがどれも具体的なことに気づきます。「稟議は来年度。予算が決まるのは3月」「工場長は乗り気だが、本社の設備部門が慎重」「今のラインは3年後に入れ替え予定」。外れではなく、時期がずれていただけの人がほとんどでした。

ここで四つ目のつまずきがありました。11月に送ったBとCへの最初の育成メールは、新型機の紹介でした。返信やページの閲覧はほとんどありません。来場者の多くは、新しい機械をすぐ買う段階ではなかったのです。

戻ってきたメモを見直すと、多かったのは「今の機械をいつまで使えるのか」「更新の稟議をどう通すか」という悩みです。12月からは、育成メールの内容を切り替えました。古い機械の部品の供給がいつ終わるかの見分け方、設備更新の稟議で上司に聞かれやすい項目、更新までのつなぎとしての点検の考え方。こうした内容に変えると、資料のダウンロードや返信が目に見えて増えました。

「まだ早い」の19件には、メモの時期に合わせて連絡日を決め直しました。「予算が決まるのは3月」の人には、2月の終わりに営業から連絡する。予定は営業企画が管理します。

展示会から5ヶ月後に起きたこと(3月)

3月の初め、共有の受信箱に一通のメールが届きました。差出人は、展示会でBランクだった中堅の食品メーカーの設備担当者です。

「展示会のあと、メールをずっと読んでいました。稟議の記事を参考に社内で話を進めたところ、来年度の予算がつきました。包装ラインの更新について、見積もりをお願いできますか」

ブースで小野さんが「今の機械は何年目ですか」と話しかけた相手でした。名刺の右上には、小野さんの字で「B」とだけ書かれています。中村さんはその日のうちに、会話の内容とメールの閲覧履歴を添えて担当営業に渡しました。

同じころ、「まだ早い」と戻ってきた19件のうち4件が、予定どおりの時期の連絡で商談に進みました。そのうち1件は、田島さんの担当でした。

会期から5ヶ月の時点で、展示会がきっかけの商談は34件、受注は3件、見積もり中が9件になりました。1ヶ月の時点の17件から、倍に増えています。もし1ヶ月の時点で振り返りを終えていたら、後半の商談は「展示会の成果」として数えられなかったはずです。

中村さんは報告で、合計の数字だけでなく、営業担当者ごとに「展示会から生まれた商談」の一覧をつくりました。一覧をしばらく黙って眺めたあと、田島さんはこう言いました。

「次の展示会の前に、去年と今年の名刺の人に招待を出してくれないか。俺の担当のところは、俺の名前で」

振り返り:うまくいったこと・うまくいかなかったこと

場面 うまくいったこと うまくいかなかったこと・次への課題
社内の説得 前年の名刺へのメールで実際の相談を生み、計画を話す前に事実を見せられた 最初の計画で営業の電話の負担を考えず、反発を招いた
ランクの基準 ベテラン営業の「過去の当たり」から基準をつくり、営業に受け入れられた 当日のランクが甘くなり、付け直し会が必要になった
ブースでの会話 ベテランの言い回しを「話のきっかけ」として共有し、若手も情報を持ち帰れた 練習会まで、聞き方の問題に気づけなかった
お礼メール 返信を受け止める仕組みを決めたことで、担当者名での送付に合意できた 出張中の営業への引き継ぎで、返信が2日遅れた例があった
育成 戻ってきた名刺のメモをもとに、内容と連絡の時期を変えられた 最初の育成メールが製品紹介で、反応が薄かった
振り返り 5ヶ月後にもう一度数え、後半の商談を成果として示せた 受注までの期間が長く、最終的な成果はまだ確定していない

自社で取り組むときのチェックリスト

  • 放置されている過去の名刺があれば、新しい計画の前に一度連絡してみたか
  • ランクの基準を、営業が過去に受注した商談の共通点からつくったか
  • 営業が個別にフォローする件数を、営業の時間で無理のない数に絞ったか
  • ブースのスタッフに、ベテランが実際に使う「最初のひとこと」を共有したか
  • お礼メールの返信を、誰が何時間以内に受けるかを決めたか
  • 会期の翌日に、スタッフと営業でランクを付け直す時間をとったか
  • 営業から戻すときに「なぜまだ早いのか」を一行書いてもらう決まりにしたか
  • 成果を会期の直後と数ヶ月後の2回、営業担当者ごとにも集計する予定を立てたか

まとめ

  • 新しい仕組みを提案する前に、眠っている名刺で小さく試し、事実を見せる
  • リードの基準は、営業の「過去の当たりの商談」から逆算してつくる
  • ブースのスタッフには、質問の一覧ではなく「話のきっかけ」を渡す
  • お礼メールの差出人を決めるときは、返信を受け止める仕組みもセットで決める
  • 当日のランクは仮と考え、翌日に営業と一緒に付け直す
  • 「まだ早い」と戻ってきた名刺のメモを、育成の内容と連絡の時期に生かす
  • 成果は数ヶ月後にもう一度測り、営業担当者ごとの「自分の商談」として返す

DADAでは、展示会の前の基準づくりから、当日の名刺の記録ルール、会期後の育成や営業への引き渡しの仕組みまでをご支援しています。展示会の名刺を商談につなげる流れを、営業部門と一緒に見直したい場合は、お気軽にご相談ください。

Written & edited byDADA Insights 編集部(株式会社DADA)

スタートアップイベントの企画・運営、新規事業のPoC、BtoBマーケティングを支援する株式会社DADAが編集・発行しています。記事の内容についてのご質問はお問い合わせから、会社の情報は会社概要をご覧ください。

公開 2026.10.01 / 最終更新 2026.10.31

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