HubSpot導入の進め方:プラン選びと最初の90日でやることを実務目線で解説
HubSpotの導入を、プラン選びから最初の90日までの流れで解説します。無料ツール・Starter・Professional・Enterpriseの違い、シートの考え方、初期設定の順番、導入でよくある失敗と対策をまとめました。
Key pointsこの記事の要点
- HubSpotのプランは、機能の一覧ではなく「やりたい自動化」が実現できるかどうかで選ぶ。
- 導入時には、誰がHubSpotを触るのか、誰が管理者として設定を担うのかを先に決めておく。
- 最初の90日は、土台づくり・リードを動かす仕組み・会議での活用と定着の3段階で進めると無理がない。
「HubSpotを入れることは決まった。でも、どのプランにすればいいのか、契約したあと何から手をつければいいのかが分からない」。BtoBのマーケティングや営業企画の担当者から、よく聞く声です。
HubSpotは無料から始められ、画面も分かりやすいため、つい「まず契約して、使いながら考えよう」と進めがちです。ところが、運用を始めてから「この自動化は今のプランではできない」「依頼元のメンバーも使いたいと言い出した」「権限がなくて設定画面を触れない」といった壁にぶつかることが少なくありません。
この記事では、HubSpotの導入を、プラン選びから最初の90日までの流れで整理します。あわせて、DADAがインキュベーションプログラムの事務局としてHubSpotの導入と運用を支援したときに、実際に「ここで止まるのか」と気づいたポイントを「現場のリアル」としてまとめました。
こんな方に向けた記事です。
- これからHubSpotを導入する予定で、どのハブ・どのプランが必要か判断したい
- 無料ツールやStarterで使い始めたが、この先どこまでできるのか整理したい
- 契約後の初期設定を、どんな順番で進めればいいか知りたい
- HubSpot導入でよくある失敗を、事前に避けておきたい
HubSpot導入でつまずきやすいのは「契約前」
HubSpotの導入でつまずく原因の多くは、契約後の設定作業ではなく、契約前の整理が足りないことにあります。よく見られるのは、次のようなパターンです。
- 目的があいまいなまま契約する:「顧客情報を一元管理したい」だけで、何を判断するために使うのかが決まっていない
- やりたい自動化を確かめていない:「HubSpotならできるはず」と思っていた自動化が、契約したプランの範囲外だった
- 使う人を決めていない:あとから利用者が増え、シート(ユーザー枠)の追加や権限の整理が必要になる
- 設定の担い手が決まっていない:管理者権限を持つ人と、実際に設定する人が別々で、作業が止まる
どれも、契約したあとでは手戻りが大きくなります。HubSpotは、ハブ(Marketing Hub、Sales Hubなどの製品群)とプラン(無料ツール、Starter、Professional、Enterprise)の組み合わせで使える機能が変わります。だからこそ、契約の前に「何をしたいか」を具体的にしておくことが、導入の成否を分けます。
MAツールやCRMそのものを選んでいる段階であれば、ツールの比較と運用設計の考え方を MA・CRMの導入と運用定着 にまとめています。この記事では、HubSpotを使うと決めたあとの進め方に絞って解説します。
導入前に決める:判断したいことと「やりたい自動化」
導入前にやっておきたいことは、大きく2つです。
1. HubSpotで「何を判断したいのか」を書き出す
まずは、HubSpotのデータを使って何を判断したいのかを、「問い」の形で書き出します。
- どのチャネルから来た問い合わせが、商談につながっているか
- イベントやセミナーの参加者のうち、どれだけがその後の商談に進んでいるか
- 営業に渡したリードは、期限内に対応されているか
- 今月の受注見込みは、目標に対して足りているか
問いが決まると、必要なデータや画面、レポートが見えてきます。逆に、問いがないまま設定を始めると、項目もダッシュボードも「とりあえず」で増えていき、あとで整理し直すことになります。
2. 「やりたい自動化」を具体的な手順で洗い出す
次に、HubSpotに任せたい作業を、「何が起きたら、何をするか」の形で具体的に書き出します。
- フォームから申し込みがあったら、受付完了のメールを送る
- 申し込みの内容によって、送るメールや担当者を変える
- イベントの数日前に、参加予定者にリマインドのメールを送る
- 一定の条件を満たしたリードを、営業の担当者に割り当てて通知する
- 営業が個別に送るフォローメールを、決まった間隔で自動的に送る
ここで大切なのは、「メールを自動で送りたい」のような大まかな書き方で止めないことです。条件による出し分けがあるか、複数のステップがつながるか、誰に通知するかまで書いておくと、必要なプランを判断しやすくなります。
プランとシートの選び方:無料・Starter・Professional・Enterpriseの違い
やりたいことが整理できたら、どのハブとプランが必要かを判断します。ここでは、プランごとの違いを「何ができるようになるか」の観点で整理します。
| プラン | できるようになることの目安 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| 無料ツール | 連絡先や会社、取引の管理、フォーム、基本的なメール送信など、CRMの基本 | まずは顧客情報を1か所に集めたい。小さく試したい |
| Starter | 無料ツールの機能に加え、利用できる量や範囲が広がる。フォーム送信をきっかけにした簡易的な自動化(シンプルワークフロー)などが使える | 少人数で、決まった流れを手作業も交えて回す |
| Professional | ワークフローによる本格的な自動化、カスタムレポートの作成など。Sales Hub・Service Hubではシーケンスも使える | 条件分岐のある自動化や、部門をまたぐ運用をしたい |
| Enterprise | カスタムオブジェクトなど、データの構造を自社に合わせて広げる機能や、大きな組織向けの管理機能 | 標準のデータ構造では表しきれない業務がある。利用者や部署が多い |
HubSpotの公式ヘルプでは、ワークフローの作成はProfessional以上、カスタムレポートの作成もProfessional以上、カスタムオブジェクトはEnterpriseと案内されています。シーケンス(営業が送るフォローメールを順番に自動送信する機能)は、Sales HubかService HubのProfessional以上で、対応するシートが必要です。Starterでも、フォーム送信をきっかけにした簡易的な自動化は使えますが、使える操作の種類や数に上限があります。
なお、料金や各プランの機能は、プランの改定や時期によって変わります。契約の前には、必ず公式の料金ページとヘルプで最新の内容を確認してください。
「どのハブが必要か」も合わせて考える
プランと同じくらい大切なのが、ハブの選び方です。たとえば、マーケティングメールやフォームまわりの自動化を充実させたいならMarketing Hub、営業のフォローや商談の管理を強化したいならSales Hub、というように、やりたい自動化がどのハブの機能なのかを確認します。同じ「Starter」でも、どのハブを契約しているかで、フォームの自動化で使える操作の上限が変わることもあります。
シート(ユーザー枠)は「誰が触るか」から考える
HubSpotの有料プランでは、ユーザーごとにシートを割り当てて使います。編集の作業をする人には有料のシートが必要で、記録やダッシュボード、レポートを見るだけの人は、閲覧のみのシートで参加できます。シーケンスのように、特定のシートがないと使えない機能もあります。
そのため、導入時には次のように「誰が、どう使うか」を一覧にしておくと、必要なシートの数と種類を見積もりやすくなります。
- 設定や運用を担う人(管理者、運用担当)
- データを入力・更新する人(マーケティング、営業、事務局など)
- ダッシュボードやレポートを見るだけの人(経営層、依頼元の担当者など)
最初の30日:アカウントの土台をつくる
ここからは、契約後の90日の進め方です。全体像は次のとおりです。
| 期間 | テーマ | 主な作業 |
|---|---|---|
| 1〜30日 | 土台をつくる | 基本設定、ユーザーと権限、ドメインとメール送信、プロパティ、データのインポート、フォームとトラッキングコード |
| 31〜60日 | リードを動かす | セグメント、メール、営業への引き渡しルール、パイプラインとステージ |
| 61〜90日 | 使い続ける形にする | ダッシュボードと会議での活用、運用ルールの文書化、定着の確認 |
最初の30日は、あとから変えにくい「土台」を整える期間です。
アカウントの基本設定
会社名、タイムゾーン、言語、通貨、日付の表示形式などの基本設定を確認します。地味な作業ですが、タイムゾーンや通貨がずれていると、レポートの集計やメールの送信時刻が意図とずれてしまいます。
ユーザーと権限
使う人を招待し、シートと権限を割り当てます。HubSpotでは、ユーザーごとに「どの機能を使えるか」「どの設定を変えられるか」を細かく決められます。すべての設定を変えられるのは、スーパー管理者の権限を持つユーザーです。
ドメインとメール送信の設定
HubSpotからメールを送るなら、自社のメール送信ドメインを接続しておきます。DNSにDKIM・SPF・DMARCなどの設定を追加し、HubSpotが自社のドメインでメールを送ることを認証する作業です。主要なメールサービスの認証の基準に沿うことで、メールが迷惑メールに振り分けられにくくなります。
DNSの設定は、情報システムの担当者や、ドメインを管理している会社に依頼することが多い作業です。依頼から設定完了まで日数がかかることがあるので、早めに相談を始めましょう。あわせて、ウェブサイトのドメインの接続や、Cookieの同意バナーの設定も確認しておきます。
プロパティの設計
プロパティは、連絡先や会社、取引などに記録する項目です。導入前に書き出した「問い」に答えるために必要な項目から決めていきます。
- 標準のプロパティで足りるものは、標準を使う
- 新しく作る項目は、「誰が、何を判断するために使うか」を説明できるものに絞る
- 分析に使う項目は、自由記述ではなく選択肢にする
プロパティの細かな設計は、項目が増えすぎないことがいちばん大切です。最初は必要最低限で始め、運用しながら追加していくほうが、結果的にデータの質が保てます。
既存データの整理とインポート
表計算ソフトや名刺管理ツール、以前のツールに散らばっているデータを整理し、HubSpotに取り込みます。取り込む前に、次の点を確認しておきましょう。
- 同じ人や会社が重複していないか(メールアドレスや会社のドメインで確認する)
- 列の名前と、HubSpotのプロパティの対応が決まっているか
- 選択肢の値が、HubSpot側の選択肢と同じ表記になっているか
- メールを送ってよい相手かどうか(配信の同意)が分かるようになっているか
- いきなり全件ではなく、少数のデータで試しにインポートしたか
インポートは、あとから大量のデータを直すのがたいへんです。少数で試して結果を確認してから、全件を取り込む順番にすると安全です。
フォームとトラッキングコードの設置
最後に、ウェブサイトにHubSpotのトラッキングコードを設置し、問い合わせや資料請求、イベント申し込みのフォームをHubSpotのフォームに置き換えます。これで、どのページを見た人が、どのフォームから申し込んだのかを記録できるようになります。
設置したら、実際にテストで送信して、連絡先が作られるか、プロパティに値が入るか、通知が届くかを確認しておきましょう。
31〜60日:リードを動かす仕組みをつくる
土台ができたら、集まったリードをマーケティングと営業で動かすための仕組みを整えます。
セグメントで「誰に何をするか」を分ける
セグメント(旧リスト)は、条件に合う連絡先をまとめる機能です。業種や役職、申し込んだイベント、メールの反応などで連絡先を分けておくと、メールの配信先や営業への引き渡しの対象を決めやすくなります。最初は、配信や施策に実際に使うセグメントだけを作るのがおすすめです。
メールは「テンプレートと送信ルール」から整える
マーケティングメールを始める前に、会社としてのテンプレート(ロゴや署名、配信停止の案内の位置など)と、送信のルールを決めておきます。誰が作成し、誰が確認して送るのか、どの頻度で送るのかを決めておくと、メールの品質がそろいます。
営業への引き渡しルールを決める
マーケティングと営業でHubSpotを共有するなら、どの状態になったらリードを営業に渡すのか、渡されたリードに営業がいつまでに対応するのかを合意しておきます。リードのステータスを示すプロパティを使い、「営業に渡した」「対応中」「見送り(理由つき)」のように状態を記録できるようにしておくと、引き渡しのあとどうなったかが見えるようになります。
パイプラインとステージを決める
取引(商談)を管理するなら、パイプラインとステージを設定します。ステージは、営業の感覚ではなく、「顧客と課題を確認できた」「提案書を送った」のように、次のステージに進む条件とセットで定義すると、誰が入力しても同じ状態を指すようになります。
61〜90日:会議で使い、運用を定着させる
最後の30日は、HubSpotを「入れたツール」から「毎週使うツール」にする期間です。
ダッシュボードは「見る会議」とセットにする
ダッシュボードは、それを使って何かを決める会議とセットで設計します。週次の営業会議では受注見込みと止まっている取引、月次のマーケティング会議ではチャネル別のリードと商談化の状況、というように、会議で答えたい問いに必要なレポートだけを置きます。
会議ではHubSpotの画面を映して話し、HubSpotに入力されていない取引は議題にしない。このルールにすると、「会議までに入力しておこう」という動きが自然に生まれます。なお、標準のレポートで足りない集計をしたい場合は、カスタムレポートが使えるプランかどうかも確認しておきましょう。
運用ルールを文書にする
この時点で、次の内容を1つの運用ルール文書にまとめておきます。
- 誰が、どの権限とシートで使っているか
- プロパティの意味と、選択肢の基準
- パイプラインとステージの定義
- 営業への引き渡しのルール
- 設定しているワークフローなどの自動化と、その目的・担当者
- 設定を変えるときの手順と、相談先
文書にしておくと、新しく使い始める人への説明が楽になり、担当者の異動があっても運用が止まりにくくなります。
定着の度合いを確かめる
90日の終わりに、次のような点を振り返ります。
- 必須の項目は、空欄なく入力されているか
- フォームから入ったリードが、ルールどおりに営業に渡され、対応されているか
- ダッシュボードは、決めた会議で実際に使われているか
- 現場から出た要望や困りごとが、一覧にたまっているか
ここで出た課題をもとに、次の90日で取り組むことを決めます。プランの見直しを検討するのも、このタイミングが適しています。実際に運用してみると、本当に必要な機能と、なくても困らない機能がはっきりするからです。
HubSpot導入でよくある失敗と対策
最後に、HubSpotの導入でよく見られる失敗と、その対策をまとめます。
| よくある失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| やりたい自動化を確かめずに契約する | 必要なワークフローがプランの範囲外で、手作業が残る | 「何が起きたら、何をするか」を書き出し、公式の情報でプランごとに確認する |
| 誰が使うかを決めていない | 途中でシートの追加や費用負担の相談が発生する | 編集する人・見るだけの人を一覧にし、将来の利用者も候補に入れる |
| 管理者と設定担当が分かれている | 権限が足りず、設定作業が止まる | 管理者と設定担当を最初に決め、渡す権限の範囲を合意する |
| プロパティを作りすぎる | 入力が続かず、データが信用されなくなる | 「誰が何を判断するか」を説明できる項目だけを作る |
| 確認せずに全件インポートする | 重複や表記ゆれが大量に残る | 事前に重複と表記をそろえ、少数で試してから取り込む |
| 稼働日をゴールにする | 問い合わせ先がなく、各自が自己流で使い始める | 最初の90日を定着期間として計画し、運用担当を置く |
まとめ
- HubSpot導入のつまずきの多くは、契約後ではなく契約前の整理不足から生まれる
- 導入前に「何を判断したいか」と「やりたい自動化」を具体的に書き出す
- プランは、やりたい自動化が実現できるかで選ぶ。本格的なワークフローはProfessional以上が前提になることが多い
- 料金や機能はプランや時期で変わるので、契約前に公式の料金ページとヘルプで確認する
- シートは「誰が触るか」から考え、編集する人と見るだけの人を分けておく
- 管理者権限を持つ人と、設定を担う人を最初に決めておく
- 最初の90日は、土台づくり・リードを動かす仕組み・会議での活用と定着の3段階で進める
DADAは、HubSpotの公式パートナーではなく、特定のプランをおすすめする立場でもありません。そのうえで、インキュベーションプログラムの事務局としてHubSpotを導入・運用した経験をもとに、やりたいことの整理やプランの検討、初期設定、運用ルールづくりまでをご支援しています。これからの導入や、導入後の使い方に迷っている場合は、HubSpotの導入・活用支援 からお気軽にご相談ください。
