HubSpotでイベント・アクセラレーションプログラムの応募と参加者を管理する方法
HubSpotのフォーム・コンタクト・セグメントを使って、アクセラレーションプログラムの応募受付から審査、参加者の管理、交流イベントの運営までを回す方法を、事務局支援の実例とつまずきやすいポイントを交えて解説します。
Key pointsこの記事の要点
- HubSpotでイベントの応募や参加者を管理するときは、フォーム、コンタクト、ビュー、セグメントを「応募から当日まで」の業務の流れに沿ってつなげて設計する。
- 1つのアカウントで複数のイベントを扱うなら、コンタクトに「イベント区分」と「参加者種別」のプロパティを持たせ、メールは必ず両方を掛け合わせたセグメントに送る。
- 複数チェックボックスの値は一括編集やフォームの送信で上書きされやすいため、値を付ける手順を決めておき、区分が空のコンタクトを定期的に確認する。
「応募はフォームで受けて、審査は表計算ソフトで、案内メールは別のツールから」。スタートアップイベントやアクセラレーションプログラムの事務局では、こうした運用をよく見かけます。
開催の回数が少ないうちは、それでも回ります。ところが、応募者、審査員、参加企業、関係者と扱う人が増え、同じ時期に複数のイベントが重なってくると、どこかで「最新の名簿はどれか」「この人にこの案内を送ってよかったのか」が分からなくなります。
この記事では、HubSpotを使って、プログラムへの応募受付から審査、参加者の管理、交流イベントの運営までを1つの流れで回す方法を解説します。私たちDADAが事務局を支援したアクセラレーションプログラムで、実際にHubSpotで運用を設計・実行した経験をもとに、運用してみて初めて気づいたポイントを「現場のリアル」としてまとめました。
こんな方に向けた記事です。
- HubSpotを導入しているが、イベントやセミナーの応募・参加者の管理はまだ表計算ソフトで行っている
- アクセラレーションプログラムやピッチイベントの事務局として、応募から審査、当日運営までの流れを整えたい
- 1つのHubSpotアカウントで複数のイベントを扱っていて、メールの誤送信や名簿の取り違えが心配
HubSpotでイベントを管理すると、何が変わるのか
まず、表計算ソフトとメール配信ツールを組み合わせた運用と比べて、HubSpotでまとめて管理すると何が変わるのかを整理しておきます。
| 業務 | 表計算+メール配信ツールでの運用 | HubSpotでの運用 |
|---|---|---|
| 応募の受付 | フォームの回答を書き出して、名簿に貼り付ける | フォームの送信内容が、そのままコンタクトに記録される |
| 審査への受け渡し | テーマごとにシートを分けて共有する | 条件で絞り込んだビューを審査担当と共有する |
| 案内メールの送信 | 送信のたびに宛先リストを作り直す | 条件で自動的に更新されるセグメントに送る |
| 参加者情報の更新 | 複数のファイルに同じ人の情報が散らばる | 1人1件のコンタクトに履歴ごと集まる |
| 次回の開催 | 前回のファイルを探して作り直す | 過去の参加履歴を持ったまま、次の募集に使える |
いちばん大きな違いは、1人の情報が1か所に集まり続けることです。今年の応募者が来年は審査員として関わる、交流イベントの参加者が次の募集に応募する、ということはプログラムの運営では珍しくありません。人を軸に履歴が積み上がると、関係者との関係そのものが事務局の資産になっていきます。
一方で、HubSpotはもともと営業やマーケティングのためのツールです。イベント運営に使うには、業務の流れに合わせて、プロパティやセグメントの設計を自分たちで決める必要があります。以降では、その設計を業務の順番に沿って見ていきます。
応募フォームから審査までの流れをつくる
最初に整えるのは、応募を受け付けてから審査に回すまでの流れです。私たちが事務局を支援したプログラムでは、次の形で構築しました。
- 応募フォーム:会社名、事業の概要、応募するトラック(募集テーマ)などを回答してもらう
- コンタクト:フォームが送信されると、回答内容がコンタクトのプロパティに記録される
- トラック別のビュー:コンタクトの一覧で「応募トラック」ごとに絞り込んだビューを保存し、テーマごとの審査担当がそれぞれのビューを見て審査を進める
ポイントは、応募トラックを、自由記述ではなく選択肢で答えてもらうことです。選択肢になっていれば、そのまま絞り込みの条件に使えます。自由記述で「〇〇の分野で」と書いてもらうと、事務局が1件ずつ読んで振り分けることになり、応募が集中する締め切り前後に作業が詰まります。
審査の進み具合も、「審査ステータス」のようなプロパティで管理しておくと、ビューの列に並べて一覧で確認できます。書類審査の通過者、面談の対象者、最終審査に進む人、といった段階を選択肢にしておけば、それぞれの段階の人にだけ案内を送ることも簡単になります。
1つのアカウントで複数のイベントを扱う:「イベント区分」と「参加者種別」
プログラムの運営では、性質の違うイベントを同じ時期に並行して回すことがよくあります。私たちが支援したプログラムでも、プログラム本体への応募者と、参加企業どうしの交流・商談イベントの参加者という、2つのイベントを同じHubSpotのアカウントで扱う必要がありました。
ここで何も設計しないまま運用を始めると、「交流イベントの案内が、プログラムの応募者にも届いてしまった」といった誤送信が起こります。そこで、コンタクトに次の2つのプロパティを用意しました。
| プロパティ | 種類 | 値の例 | 使い道 |
|---|---|---|---|
| イベント区分 | 複数チェックボックス | プログラム本体/交流・商談イベント | どのイベントの関係者かを見分ける |
| 参加者種別 | 選択肢(ドロップダウンなど) | スタートアップ/会員企業/審査員/関係者 | 立場ごとに案内の内容を分ける |
イベント区分を複数選択のチェックボックスにしたのは、両方のイベントに関わる人がいるからです。たとえば、プログラムのファイナリストは交流イベントにも参加します。こうした人には、区分を両方付けておきます。
そのうえで、メールの送信先は必ず「イベント区分 × 参加者種別」を掛け合わせたセグメント(旧リスト)にしました。「交流イベント × 会員企業」「プログラム本体 × スタートアップ」のように、送り先ごとにセグメントを用意しておき、メールを作るときはその中から選ぶだけにします。
参加者種別ごとにセグメントを分けておくと、案内の文面も立場に合わせて変えられます。スタートアップには発表の準備に関する案内を、会員企業には商談の申し込み方法を、審査員には評価の手順を、とそれぞれに必要なことだけを伝えられます。
プロパティは使い回さない:イベントごとに作る理由
イベントの回数が増えてくると、「前回のイベントで作った『参加可否』のプロパティを、今回も使えばいいのでは」と考えたくなります。確かに、プロパティの数は増えずに済みます。
しかし私たちは、イベントごとのプロパティは、別のイベントのものを流用せず、イベント名の接頭辞を付けて新しく作ることにしました。たとえば「交流イベント_参加可否」「交流イベント_マッチング希望」のような形です。
理由は、上書きの事故を防ぐためです。同じプロパティを使い回すと、前回のイベントで「参加」と答えた人の値が、今回のフォームの回答で上書きされます。今回答えていない人には前回の値が残るため、どれが今回の回答なのか見分けがつかなくなります。
プロパティが増えていくと、一覧から探しにくくなります。イベントごとにプロパティのグループを作ってまとめておくと、あとから整理しやすくなります。開催が終わったイベントのプロパティを、どのタイミングで整理するのかも、あわせて決めておくとよいでしょう。
参加可否・プロフィール・マッチング希望をフォームで集める
交流・商談イベントでは、参加の可否に加えて、名簿やマッチングに使う情報も集める必要があります。ここでは、事務局の手間と回答者の負担の両方を減らすために、次のような工夫をしました。
1つのフォームで、必要な情報をまとめて集める
参加可否と、当日の名簿に載せるプロフィール(会社名、役職、事業の紹介など)は、1つのフォームでまとめて回答してもらうようにしました。フォームを分けると、「参加可否は返ってきたが、プロフィールが未提出」という人が必ず出て、事務局の催促の手間が増えるからです。
海外の参加者に向けて、日英併記にする
参加者には海外の方も含まれていたため、フォームと案内メールは日本語と英語を併記しました。言語ごとにフォームを分ける方法もありますが、そうすると回答が2つのフォームに分かれ、集計の手間が増えます。1つのフォームで併記にしておけば、回答はすべて同じプロパティにたまります。
ヘルプテキストで、文字数の目安を示す
事業紹介のような自由記述の欄には、フォームのヘルプテキストで「100文字程度で」のように文字数の目安を示しました。目安がないと、一言だけの回答と、長文の回答が混ざります。名簿やマッチングの資料にそのまま使えるよう、書いてほしい長さをあらかじめ伝えておくことが大切です。
マッチングの希望を回収して、タイムテーブルを組む
交流・商談イベントでは、参加者どうしの1on1のマッチングも行いました。どの企業と話したいかの希望をフォームで回収し、コンタクトのプロパティにためておきます。締め切り後に、対象のセグメントの回答をCSVで書き出し、表計算ソフトで希望を突き合わせてタイムテーブルを組みました。
マッチングの組み合わせを考える作業そのものは、HubSpotの中で完結させるより、書き出して表計算ソフトで行うほうが柔軟に調整できます。情報を集めて保管するのはHubSpot、組み合わせを考えるのは表計算ソフトと、役割を分けるのが現実的です。
区分の付け漏れと上書きを防ぐ、日々の運用
設計が整っても、運用の中で少しずつデータは崩れていきます。特に注意したいのが、イベント区分の「付け漏れ」と「上書き」です。
区分が空のコンタクトを、定期的に拾う
問い合わせ窓口として共有受信トレイを使っていると、届いたメールから自動的にコンタクトが作られることがあります。こうしたコンタクトは、フォームを経由していないので、イベント区分が空のままです。区分が空だと、どの「区分×種別」のセグメントにも入らず、必要な案内が届かなくなります。
そこで、「イベント区分が未設定」のコンタクトを集めるセグメントを作り、定期的に中身を確認して区分を付けるようにしました。誤送信を防ぐ仕組みは、裏を返すと「区分がない人には何も届かない」仕組みでもあります。その抜け漏れを拾う場所を、あらかじめ用意しておくことが大切です。
チェックボックスの値は「追加」で付ける
複数のコンタクトにまとめて区分を付けるときは、一括編集を使います。このとき、複数チェックボックスのプロパティでは、「現在の値に追加」「現在の値を置換」「現在の値から削除」の中から操作を選びます。
区分はフォームの非表示項目ではなく、事務局が付ける
フォームの非表示の項目に区分の値をあらかじめ入れておき、送信と同時に区分が付くようにする方法もあります。手間がかからず便利に見えますが、HubSpotのコミュニティでは、フォームの送信で複数チェックボックスの値が、追加ではなく置き換えられてしまうという報告が以前から寄せられています。両方のイベントに関わる人が、片方のフォームに回答した瞬間に、もう一方の区分が消えてしまうおそれがあるわけです。
そのため私たちは、区分の付与はフォームに任せず、インポートや一括編集で事務局が付ける運用にしました。なお、インポートでも書き方によって値が追加になるか置き換えになるかが変わります(公式ヘルプでは、値の先頭にセミコロンを付けると追加になると案内されています)。挙動はプランや時期によって変わる可能性もあるため、本番の前にテスト用のコンタクトで必ず確かめてください。
- 「イベント区分が未設定」のセグメントに、新しいコンタクトが入っていないか
- 一括編集やインポートのあと、両方の区分を持つ人の値が残っているか
- メールを送る前に、送信先のセグメントが「区分×種別」になっているか
- 新しいイベントのプロパティに、接頭辞が付いているか
自動化はどこまでできるか:プランを選ぶ前に洗い出すこと
イベントの運営では、「フォームが送信されたら、受付完了のメールを送る」「審査を通過した人に、次の案内を自動で送る」といった自動化をしたくなる場面が多くあります。
ただし、HubSpotで使える自動化の範囲は、契約しているプランによって大きく変わります。私たちが支援したプログラムでは、Starterプランの範囲で運用したため、フォーム送信後の自動フォローなどの自動化に制約がありました。Starterでも、フォームの送信後のフォローメールや、アクションの種類や数が限られた簡易的な自動化は使えますが、条件で分岐させるような本格的なワークフローは、Professional以上が前提になる場面がありました。プランごとに使える機能は時期によって変わるため、最新の内容は公式の情報で確認してください。
書き出すときは、次のような単位で整理すると判断しやすくなります。
- 応募の受付:受付完了の連絡、締め切り前のリマインド
- 審査:審査担当への通知、結果の連絡
- 参加の確定:参加可否の確認、未回答者への催促
- 当日前後:当日の案内、開催後のアンケートとお礼
すべてを自動にする必要はありません。件数が少なく、1通ずつ内容を変えたい連絡は、手作業のほうが丁寧に対応できます。件数が多く、内容が決まっている連絡から自動にすると考えると、プランに求める機能の線引きがしやすくなります。
まとめ
- HubSpotでイベントを管理する価値は、人を軸に応募や参加の履歴が積み上がり、次の開催に使えること
- 応募フォームのトラックは選択肢で答えてもらい、審査担当ごとのビューで審査に回す
- 1つのアカウントで複数のイベントを扱うなら、「イベント区分」と「参加者種別」をプロパティにし、メールは必ず両方を掛け合わせたセグメントに送る
- イベントごとのプロパティは使い回さず、接頭辞を付けて新しく作り、フォームの表示ラベルは自然な言葉に書き換える
- フォームは、回答が載る資料から逆算して設計し、日英併記やヘルプテキストで回答のばらつきを減らす
- 複数チェックボックスは「現在の値に追加」で付け、区分が空のコンタクトを定期的に確認する
- 自動化したい業務は、プランを選ぶ前に書き出しておく
DADAでは、スタートアップイベントやアクセラレーションプログラムの事務局運営と、HubSpotを使った応募・参加者管理の設計を、あわせてご支援しています。「応募の管理が表計算ソフトから抜け出せない」「複数のイベントを1つのアカウントで安全に回したい」といったお悩みがあれば、HubSpotの導入・活用支援のページから、お気軽にご相談ください。
