新規事業の顧客インタビューで「本音」を引き出す聞き方の実務ガイド
顧客インタビューをしたのに、聞いた話が判断に使えない。そんな状態を防ぐために、アポの取り方から質問の設計、当日の聞き方、記録と分析までを、現場で気づきやすい落とし穴とあわせて解説します。

Key pointsこの記事の要点
- 顧客インタビューが判断材料にならない原因は、質問の中身より、依頼の仕方や同席者などの段取りにあることが多い。
- 「普段は」「なぜ」ではなく、「最後にしたのはいつか」「何がきっかけか」と過去の行動を聞く。
- 二人で行って「反応が変わった瞬間」を記録し、その日のうちに「事実」と「解釈」に分ける。
新規事業の顧客インタビューを何件も重ねたのに、振り返ると「結局、何が分かったのか言えない」。そんな経験はないでしょうか。
相手は丁寧に話してくれた。メモもたくさん取った。それでも、事業を進めるかどうかを決める材料にはならない。この原因の多くは、質問の中身よりも、アポの取り方、当日の体制、記録の残し方といった「段取り」にあります。
この記事では、インタビューの準備から分析までを、順を追って整理します。あわせて、実際にインタビューを重ねると「ここで本音が逃げていくのか」と気づくポイントを「現場のリアル」としてまとめました。
こんな方に向けた記事です。
- 大企業の新規事業担当として、顧客インタビューを任された
- インタビューはしているが、聞いた話をどう判断に使えばよいか分からない
- スタートアップで、限られた時間の中で顧客の話を効率よく聞きたい
「話を聞いたのに分からない」が起きる理由
インタビューが判断材料にならないとき、多くの場合、次のどれかが起きています。
- 相手が「答えやすいこと」を話している:本当の困りごとではなく、一般論や理想の姿を話している
- 聞き手が話しすぎている:自分たちのアイデアを説明する時間が長く、相手の話を聞けていない
- 記録に解釈が混ざっている:メモの時点で「ニーズあり」とまとめてしまい、相手が実際に何を言ったかが残っていない
どれも聞き手の努力不足ではなく、仕組みの問題です。だからこそ、本音が出やすい条件を、聞く前に整えておくことが大切です。
アポの取り方:誰に、どう声をかけるか
インタビューは、当日より前から始まっています。どんな言葉で依頼したかによって、相手が当日どんな心構えで来るかが決まるからです。
依頼の文面には、次のことを入れておきましょう。
- 何を教えてほしいのか(例:「〇〇業務の進め方について」)
- 所要時間(長くても1時間以内が目安)
- 売り込みの場ではないこと
- 話した内容の扱い(社外に出さない、個人や会社が特定される形で使わない)
紹介でアポを取るときの注意
社内の営業担当や取引先からの紹介は、アポが取りやすい反面、気をつけたい点があります。紹介者がその場に同席すると、相手は紹介者の顔を立てる話し方になりがちです。
質問の設計:意見ではなく「過去の行動」を聞く
インタビューで信頼できるのは、相手の意見や予想ではなく、実際にやったことです。「使いたいと思いますか」と聞かれれば、人は気をつかって前向きに答えます。一方、「先月、その作業にどう対応しましたか」と聞かれれば、事実を答えるしかありません。
質問を設計するときは、意見や仮定を聞く質問を、過去の行動を聞く質問に言い換えていきます。
| 避けたい質問 | 言い換えの例 | 言い換える理由 |
|---|---|---|
| 普段はどのように管理していますか? | 最後にその作業をしたのはいつですか?そのときの手順を教えてください | 「普段」には理想の姿が混ざる。直近の1回なら事実が出る |
| こういうサービスがあったら使いますか? | この問題を解決するために、これまで何か試したことはありますか? | 仮定の質問には誰でも前向きに答えられる |
| 何に困っていますか? | この1か月で、いちばん時間がかかった作業は何でしたか? | 漠然とした問いには、一般論が返ってきやすい |
| なぜそうしているのですか? | そのやり方になったきっかけは何でしたか? | 「なぜ」は責められている印象を与え、もっともらしい理由が返ってくる |
| いくらなら払いますか? | 今、その作業にどんな費用や人手をかけていますか? | 金額の予想より、今かけているコストのほうが確か |
質問は「必ず聞くこと」を3つに絞る
質問リストは、つくり込むほど安心できます。ただ、項目が多すぎると、聞き手はリストを消化することに意識が向き、相手の話を深掘りできなくなります。
質問は、今回のインタビューで「必ず確かめたいこと」を3つまでに絞り、それぞれに言い換えの質問を2〜3個用意しておきます。残りの時間は、相手の話の流れに沿って深掘りに使います。リストは「全部聞くもの」ではなく、「話がそれたときに戻る場所」と考えましょう。
当日の体制:二人で行き、役割を分ける
インタビューは、できれば二人で行きましょう。一人で聞きながらメモを取ると、どうしても相手の表情や言いよどみを見逃します。また、メモを取ることに気を取られて、次の質問を考える余裕がなくなります。
| 役割 | 主にやること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 聞き手 | 質問をする、話を深掘りする、時間を管理する | メモはほとんど取らず、相手の話と表情に集中する |
| 記録係 | 相手の言葉をそのまま書き取る、気になった点を残す | 途中で質問をしない。最後の数分だけ確認の質問をする |

当日の聞き方:沈黙と「たとえば」で深掘りする
当日の聞き方で大切なのは、相手に話してもらう時間を、できるだけ長くすることです。こちらのアイデアの説明は最小限にとどめ、相手の仕事の話に時間を使いましょう。
深掘りに使える言葉は、次のようなものです。
- 「たとえば、最近だとどんなことがありましたか?」
- 「そのとき、まず何をしましたか?」
- 「それで、どうなりましたか?」
- 「ほかの方はどうされていますか?」
抽象的な話が続いたら、「たとえば」で具体的な出来事に引き戻しましょう。
相手の社内での立場を見極める
BtoBの新規事業では、インタビューの相手が「困っている人」であっても、「お金を出すと決める人」とは限りません。相手の話を正しく受け止めるには、その人が社内でどんな立場にいるのかを知っておく必要があります。
確認しておきたいのは、次のような点です。
- 相手は、その業務を実際に行っている人か、管理している人か
- その業務の改善に、予算をつけられる立場か
- 新しい仕組みを入れるときに、ほかにどの部署が関わるか
記録と分析:その日のうちに「事実」と「解釈」を分ける
インタビューの記録は、時間がたつほど聞き手の解釈が混ざっていきます。その日のうちに、二人で記録を整理する時間をとりましょう。インタビュー直後に30分ほど予定を空けておくのがおすすめです。
整理するときは、次の項目に分けて書きます。
| 項目 | 書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 相手の言葉 | 印象に残った発言を、言い回しのまま残す | 「月末は、正直その作業のために残業している」 |
| 事実 | 相手が実際にやったこと、起きたこと | 先月、集計のミスで報告をやり直した |
| 反応 | 声の調子や表情が変わった場面 | 費用の話になると歯切れが悪くなった |
| 解釈 | 聞き手がそこから考えたこと | 集計の手間より、ミスによる手戻りが負担の中心では |
| 次に確かめること | 次のインタビューで聞きたいこと | 手戻りが起きたとき、誰が責任をとるのか |

録音と書き起こしの扱い
録音は、必ず相手の許可をとってから行います。冒頭で「聞き漏らしを防ぐために録音してもよいですか。社外には出しません」と伝えれば、多くの場合は了承してもらえます。
書き起こしの全文は、あとから読み返すには長すぎます。一方で、要約だけを残すと、相手の言い回しが消えてしまいます。「困っている」と「正直、もう限界です」では、同じ課題でも重さがまったく違います。要約と一緒に、相手の印象的な言葉をそのまま抜き出して残しておくと、社内で共有したときにも説得力が増します。
複数のインタビューをまとめるとき
インタビューの数が増えてきたら、一人ひとりの記録を横に並べて見比べます。このとき、「何人が同じことを言ったか」だけで判断しないように注意しましょう。
大切なのは、同じ課題について、実際に行動している人がいるかどうかです。自分でツールを探した、表計算ソフトで独自の仕組みをつくった、上司に改善を提案した。そうした人がどんな立場で、どんな会社にいるのかを見ていくと、最初に狙うべき顧客の姿が見えてきます。
インタビュー前後のチェックリストもまとめておきます。
- 依頼文は「教えてください」という書き方になっているか
- 「必ず確かめたいこと」を3つまでに絞ったか
- 聞き手と記録係の役割を決めたか
- 録音の許可をとる言葉を用意したか
- インタビュー直後に、二人で整理する時間を確保したか
- 記録は「相手の言葉」「事実」「反応」「解釈」に分けたか
よくある質問
何人くらいに話を聞けばよいですか?
決まった人数はありません。目安になるのは、新しい話が出てこなくなったかどうかです。同じ立場の人に話を聞いて、似た話が続くようになったら、その層についてはある程度見えてきたと考えられます。一方で、立場や会社の規模を変えると、まったく違う話が出てくることもあります。誰に聞いたのかを分けて整理しておきましょう。
オンラインのインタビューでも本音は聞けますか?
聞けます。移動がない分、日程は合わせやすくなります。ただし、表情の変化が読み取りにくく、沈黙も気まずく感じやすくなります。カメラはお互いにオンにしてもらい、記録係は画面越しの表情や声の調子の変化に注意しましょう。相手の職場の様子を見たい場合は、可能な範囲で対面の回も混ぜるのがおすすめです。
相手からアイデアについて意見を求められたら、どうすればよいですか?
インタビューの終盤であれば、簡単に説明して構いません。ただし、説明は短くとどめ、感想よりも「もし使うとしたら、今のどの作業が置き換わりそうですか」と、相手の仕事に引き戻す質問をしましょう。序盤に説明してしまうと、その後の話がアイデアへの感想に引っぱられるので、本題を聞き終えてからにします。
まとめ
- インタビューが判断材料にならない原因は、質問の中身より「段取り」にあることが多い
- 依頼文は「ご意見をください」ではなく「やり方を教えてください」と書き、紹介者の同席は避ける
- 「普段は」「なぜ」ではなく、「最後にしたのはいつか」「何がきっかけか」と過去の行動を聞く
- 二人で行き、記録係は発言とあわせて「反応が変わった瞬間」を残す
- 相手が話し終えたら3つ数えて待ち、録音を止めたあとの会話も記録する
- 相手の社内での立場を確かめ、記録はその日のうちに「事実」と「解釈」に分ける
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