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【ケーススタディ:テストマーケティング】配車管理スタートアップが大手荷主向け展開を8週間で見極めた話

中小運送会社向けの配車管理サービスを持つスタートアップD社が、大手荷主向けに展開できるかをLPと広告、面談で約8週間検証した物語です。想定外の結果で検証の読み方が変わるまでを、学びとあわせて紹介します。

【ケーススタディ:テストマーケティング】配車管理スタートアップが大手荷主向け展開を8週間で見極めた話

Key pointsこの記事の要点

  • 新しい顧客層に向けたLPは、既存顧客の言葉ではなく、その層の言葉でゼロから書く。
  • 問い合わせの数は、「誰から来たか」の内訳を確かめるまで成果として扱わない。
  • 大企業では使う人・得をする人・お金を出す人が分かれるため、面談では3つを分けて聞く。
この記事について

この記事は、新規事業やイベントの現場でよくある状況をもとに構成したモデルケースです。登場する企業・人物は、特定の企業や個人ではありません。

既存の顧客とは違う、もっと大きな相手に売れるかもしれない。スタートアップが成長の次の一手を考えるとき、よく出てくる問いです。中小企業向けに手応えのあるサービスを、大企業にも広げられないか。投資家からも「次の市場は?」と聞かれる時期に、この問いは急に重くなります。

この記事では、中小の運送会社向けに配車管理サービスを提供するスタートアップ「D社」が、大手荷主企業向けに展開できるかを、LP(紹介ページ)と広告、問い合わせ者との面談で約8週間かけて確かめた物語を紹介します。途中で想定外の結果が出て、チームは「検証の読み方」そのものを変えることになります。

LPと広告での検証を考えている方、すでに一度やってみて結果の読み方に迷った方に向けた記事です。手順の解説ではなく、現場で実際に何が起き、チームがどう考えを変えていったかに焦点を当てています。物語の要所には「このケースから学べること」をまとめました。

ケースの概要

項目 内容
会社 D社。創業4年目の配車管理サービスのスタートアップ
既存事業 中小の運送会社向けに、配車表の作成とドライバーへの連絡をまとめて行えるサービスを提供
検証したい問い 大手の荷主企業(メーカーや卸の物流部門)に、このサービスを展開できるか
チーム CEOの森山、営業責任者の川端、マーケ担当の西田、カスタマーサクセス担当の小野(元・運送会社の配車係)
期間 約8週間
予算感 広告費とLP制作をあわせて少額。社員を増やさず、既存の業務と並行して実施

第0〜1週:「大手にも売れるはず」から始まった

きっかけは、投資家との定例の打ち合わせでした。D社の導入社数は順調に伸びていましたが、顧客の多くは従業員数十名の運送会社です。1社あたりの契約額は小さく、投資家からは「単価の大きい市場をどう取りにいくか」を聞かれていました。

CEOの森山には、温めていた考えがありました。大手の荷主企業は、何十社もの運送会社に配送を任せています。荷主の物流部門が配車の状況をまとめて把握できれば、きっと価値がある。「うちのサービスを少し作り変えれば、大手の荷主にも売れるはずだ」。

一方、営業責任者の川端は慎重でした。大手企業への営業は、決裁までに時間がかかります。いきなり開発や営業の人員を投じるのは危険だ、というのが川端の考えでした。

2人の議論の落としどころが、作り込む前に、LPと広告で反応を確かめることでした。8週間後の経営会議で「展開する/しない」を決める。判断基準は、次のように置きました。

  • 大手荷主の物流部門からの問い合わせを、面談に10件つなげる
  • そのうち3社以上が「有料での導入を検討したい」と言う
  • この2つを満たせば「展開する」、満たさなければ「しない」

マーケ担当の西田は、チーム全員に予想も書いてもらいました。森山は「面談15件、有料検討5社」。川端は「面談5件、有料検討1社」。小野は「荷主さんは、配車の中身にはあまり興味がないと思う」と1行だけ書きました。この1行が、のちに効いてきます。

第1〜2週:LPの訴求をめぐる、最初のつまずき

LPの原稿づくりは、西田が担当しました。手元にあったのは、既存の中小向けLPです。反応の良かった見出し「配車表づくりを、毎朝30分から5分に」を土台に、大手向けの言葉を足していきました。

できあがった見出しは「全国の配車を、ひとつの画面で」。下には、配車表の自動作成、ドライバーへの一斉連絡、運行状況の確認、という3つの機能を並べました。

レビューの場で、小野が首をかしげました。

「これ、配車係が読んだら喜ぶと思います。でも、荷主の物流部の人って、自分で配車表をつくってないですよね」

森山は「機能は同じなんだから、まずは出してみよう」と答えました。期限は決まっています。原稿の議論で1週間を使うより、数字を見てから直せばいい。チームはそう判断し、第2週の終わりにLPを公開しました。

広告は、物流や購買の職種で、従業員数の多い企業に絞ったSNS広告と、「配車 管理」「物流 可視化」などの言葉に合わせた検索広告の2本立てです。フォームは「資料請求」と「オンライン相談の予約」の2つにしました。

第3〜4週:問い合わせ14件に沸いたチーム

スタートアップのオフィスで、問い合わせの通知が並ぶモニターを前にメンバーがハイタッチし、1人だけが通知の中身を見て首をかしげている様子

配信を始めて最初の週末、西田がチャットに書き込みました。「問い合わせ、もう6件来てます」。

森山はすぐに反応しました。「いいね。大手でも刺さるってことだ」。2週目が終わるころには、問い合わせは14件になっていました。予想を上回るペースです。その週、森山は投資家への月次報告に「大手向けLPに、2週間で14件の問い合わせ」と書きました。

ところが、面談の日程調整を始めた川端が、違和感に気づきます。問い合わせの会社名を1件ずつ調べていくと、従業員数十名の運送会社が多いのです。

フォームには、会社名と氏名、連絡先しか聞いていませんでした。問い合わせてきた人が荷主なのか運送会社なのか、フォームからは分からなかったのです。川端が会社のサイトを一つひとつ確認した結果は、こうでした。

  • 中小の運送会社:10件
  • 大手荷主の物流部門:3件
  • どちらとも言えない(物流子会社):1件

つまり14件のうち、検証したい相手からの問い合わせは3件だけでした。残りの多くは、既存事業の見込み客です。ありがたい問い合わせではありますが、今回の問いの答えにはなりません。

チームの空気は一気に冷えました。森山は、投資家への報告を訂正するメールを書くことになりました。

第5週:立場を聞くフォームと、荷主の言葉で書き直したLP

週1回の振り返りで、チームは2つの修正を決めました。

1つ目は、フォームに「ご所属の立場」を選ぶ項目を加えることです。選択肢は「荷主企業(メーカー・卸・小売など)」「運送会社」「物流子会社」「その他」の4つにしました。運送会社からの問い合わせは、既存事業の営業チームに回す流れもつくりました。

2つ目は、LPの書き直しです。今度は、小野が原稿に加わりました。配車係として荷主とやりとりしてきた経験から、小野はこう言いました。

「荷主さんから電話で聞かれるのは、いつも同じことなんです。『あの荷物、いまどこ?』『明日のトラック、ちゃんと押さえられてる?』。配車表のつくり方を聞かれたことは、一度もありません」

新しい見出しは「協力運送会社の配車状況、電話で確認していませんか」に変わりました。機能の説明も、配車表の作成ではなく、複数の運送会社の状況を、荷主の側からまとめて見られることを中心に書き直しました。

この修正は、検証期間中の大きな修正として1回だけ、と決めていたものです。変えた日と内容は、振り返り用のシートに記録しました。

修正後の2週間で、荷主からの問い合わせは9件増え、合計12件になりました。数は大きくありませんが、フォームの立場の欄で「荷主企業」を選んだ人だけの数字です。森山は今度は、投資家への報告に数字を書く前に、チーム全員の確認をとりました。

第6〜7週:面談で出てきた「うちが使うんじゃない」

オンライン面談で荷主企業の担当者が運送会社の方向を示し、スタートアップの担当者がホワイトボードに関係図を描き直している様子

荷主からの問い合わせ12件のうち、9件が面談につながりました。面談は、川端と小野の2人で担当しました。最初に課題を聞き、サービスの説明はあとに回す進め方です。

3件目の面談で、川端は予想していなかった言葉を聞きます。相手は、大手食品メーカーの物流部で課長を務める人でした。

「正直に言うと、うちの部署で使うつもりはないんです。使ってほしいのは、協力会社さんのほうで。協力会社さんがこういう仕組みで配車してくれたら、うちはその画面を見せてもらえればいいので」

最初は、1社だけの意見だと思っていました。ところが、その後の面談でも、似た言葉が続きます。

「協力会社の中には、いまだに紙とファクスで配車しているところがある。そこが変わってくれないと、こちらの見える化も進まない」

「うちが費用を出すとしたら、協力会社さんの導入を後押しする形かな。うちの部署の予算で、うちが使うシステムを買うのは難しい」

面談9件を振り返ると、結果はこうでした。

  • 荷主自身が使うシステムとして、有料で検討したい:0社
  • 協力運送会社に使ってもらうことに強い関心がある:6社
  • そのうち、協力会社の導入費用の一部負担を検討できる:2社

当初の判断基準で見れば、答えははっきりしていました。面談は10件に届かず、有料で検討したい荷主は0社。「展開しない」です。

けれど、チームはこの結果を前に、しばらく黙り込みました。荷主に関心がないわけではない。むしろ強い関心がある。ただ、その関心は「自分が買う」ではなく、「協力会社に使ってほしい」という形をしていたのです。

小野が、第0週に書いた自分の予想を読み上げました。「荷主さんは、配車の中身にはあまり興味がないと思う」。半分は当たっていて、半分は外れていました。中身には興味がない。でも、協力会社が使うことには、強い興味がある。

第8週:「展開しない」と言い切ってから、次の問いを立てる

経営会議の前日、チームは結果のまとめ方で揉めました。

森山は、報告の結論を「荷主経由の展開に可能性あり」にしたいと考えていました。6社が強い関心を示したのは事実です。投資家にも、前向きな話を持っていきたい。

川端は反対しました。「最初の問いは『大手荷主向けに展開できるか』でした。その答えは『しない』です。そこをぼかすと、この8週間で何を決めたのかが分からなくなります」

議論の末、報告は2段に分けることになりました。

  1. 当初の問いへの答え:大手荷主に、荷主自身が使うシステムとして展開することは「しない」。判断基準のどちらも満たさなかった
  2. 検証で見つかった新しい問い:荷主を入口に、その協力運送会社へ導入を広げる形は成り立つか。これは今回の検証では確かめていない

経営会議では、2つ目の問いをどう確かめるかが議論の中心になりました。導入費用の一部負担を検討できると答えた2社に協力してもらい、それぞれの協力会社数社で試験導入する。期間は3か月。協力会社が実際に使い続けるか、荷主が費用を出すかを判断基準にする。新しい検証の計画が、その場で固まりました。

数日後、森山は投資家への報告で、こう書きました。「大手荷主への直接展開は見送ります。代わりに、荷主を起点に運送会社を増やす形を、次の3か月で検証します」。返ってきた返事は、意外にも好意的でした。「やらないと決めた理由がはっきりしているのが良い」。

8週間の流れ

週 主な出来事 チームの判断・変化
第0〜1週 投資家との打ち合わせを機に、大手荷主向け展開の検証を決定 判断基準とメンバーの予想を書き残す
第1〜2週 既存LPを土台に大手向けLPを制作、広告を開始 現場メンバーの違和感を「まず出す」で見送る
第3〜4週 問い合わせ14件。うち荷主は3件と判明 投資家への報告を訂正。フォームの不備に気づく
第5週 フォームに立場の項目を追加、LPを荷主の言葉で書き直し 修正は1回だけと決め、内容を記録
第6〜7週 荷主との面談9件。「使うのは協力会社」という声が続く 当初の問いと別の手がかりがあると気づく
第8週 経営会議で結果を報告 当初の問いには「しない」。新しい検証を3か月で計画

振り返り:うまくいったこと・うまくいかなかったこと

うまくいったこと うまくいかなかったこと
準備 判断基準とメンバーの予想を、検証の前に書き残した 新しい層に向けたLPを、既存LPの改訂でつくった
LP・広告 修正を1回に絞り、変えた日と内容を記録した フォームで立場を聞かず、問い合わせの中身を見誤った
面談 課題を先に聞き、サービスの説明をあとに回した 「誰が使い、誰が払うか」を最初から分けて聞けなかった
報告 当初の問いへの答えと、新しい問いを分けて報告した 内訳を確かめる前に、良い数字を投資家に伝えた

振り返ると、2つのつまずきはどちらも「数字を早く見たい」という気持ちから生まれていました。そして、つまずきから立て直せたのは、判断基準と予想を最初に書き残していたからです。基準があったから、結果を前にしても「しない」と言い切れました。予想があったから、どこが想定外だったのかを言葉にできました。

自社で取り組むときのチェックリスト

  • 新しい層向けのLPを、既存のLPの使い回しではなく、その層の言葉で書いているか
  • 原稿を、新しい層の現場を知るメンバーに読んでもらったか
  • フォームに、問い合わせた人の立場を選ぶ項目があるか
  • 問い合わせの数を、立場ごとに分けて数える準備ができているか
  • 途中報告に「まだ分からないこと」を添えるルールを決めているか
  • 面談で「誰が使い、誰が得をし、誰が払うか」を分けて聞く質問を用意しているか
  • 判断の場で、元の問いへの答えと、新しく見つかった問いを分けて報告するか

まとめ

  • 新しい層に向けたLPは、既存顧客の言葉ではなく、その層の言葉でゼロから書く
  • 問い合わせの数は、「誰から来たか」の内訳を見るまで喜ばない、報告しない
  • 途中報告は「分かったこと」と「まだ分からないこと」をセットで伝える
  • 大企業では、使う人・得をする人・お金を出す人が分かれる。面談では3つを分けて聞く
  • 想定外の結果が出ても、まず元の問いに「する/しない」で答え、手がかりは次の検証の問いにする
  • 大企業の関心の強さは、相手から予算や費用負担の話が出るかで見極める

DADAでは、検証の設計から、LPの制作、広告の運用、問い合わせ者へのインタビュー、判断材料となるレポートづくりまでを伴走しています。新しい市場に向けた検証をどう進めればよいか迷っている場合は、お気軽にご相談ください。

Written & edited byDADA Insights 編集部(株式会社DADA)

スタートアップイベントの企画・運営、新規事業のPoC、BtoBマーケティングを支援する株式会社DADAが編集・発行しています。記事の内容についてのご質問はお問い合わせから、会社の情報は会社概要をご覧ください。

公開 2026.09.29 / 最終更新 2026.10.31

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