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【ケーススタディ:PoC・顧客インタビュー】「いいですね」に3ヶ月振り回された新規事業チームの立て直し

大手食品メーカーの社内新規事業チームが、顧客の「いいですね」に3ヶ月振り回され、検証のやり方を変えて次の審査に臨むまでを描いたモデルケースです。つまずきと学びを、現場の目線で追います。

【ケーススタディ:PoC・顧客インタビュー】「いいですね」に3ヶ月振り回された新規事業チームの立て直し

Key pointsこの記事の要点

  • 試作品への「いいですね」は、相手が時間やお金を差し出していない段階の言葉で、需要の証拠にはならない。
  • 価格を書いた提案を出すと、返事が止まったところに事業の本当の論点が見えてくる。
  • 兼務の新規事業チームは、検証の時間を曜日で押さえ、集計している数字が判断に使えるかを問い直す。
この記事について

この記事は、新規事業やイベントの現場でよくある状況をもとに構成したモデルケースです。登場する企業・人物は、特定の企業や個人ではありません。

試作品を見せた顧客から「いいですね」「ぜひ使ってみたいです」と言われる。新規事業の担当者にとって、これほどうれしい瞬間はありません。ところが、その言葉を信じて進んだ先で、話がぴたりと止まってしまうことがあります。

この記事では、大手食品メーカー「C社」の社内新規事業制度で選ばれたチームが、顧客の「いいですね」に3ヶ月振り回され、そこから検証のやり方を変えて、次の審査で判断材料をそろえるまでを、物語の形でたどります。

大企業で新規事業を任されている方、とくに本業と兼務しながら検証を進めている方に向けた記事です。インタビューや判断基準のノウハウが、実際の現場では「どんな形でつまずきとして現れるのか」を、具体的な場面で見ていきます。

ケースの概要

項目 内容
会社 C社。家庭用・業務用の食品を扱う大手食品メーカー
事業アイデアの概要 中規模の介護施設に向けて、やわらか食の献立と食材をセットで届ける法人向けサービス。献立の作成と食材の発注にかかる手間を減らす
チーム構成 3名。全員が本業との兼務(業務時間の2割を新規事業に充てる決まり)
制度上のステージ 社内新規事業制度の「検証ステージ」。半年後の審査で、事業化検討ステージに進むかが決まる
期間 4月の採択から、12月の審査までの約9ヶ月

4月:採択の日、審査員から出された宿題

チームのリーダーは、マーケティング部の課長代理、森本さん(仮名)です。きっかけは、介護施設で働く知人の管理栄養士から聞いた一言でした。「献立を考えて、食材を発注するだけで一日が終わる日がある」。

森本さんは、研究開発部で介護食の開発に携わる主任の青木さん(仮名)と、営業企画部で入社5年目の川口さん(仮名)に声をかけ、社内新規事業制度に応募しました。書類審査と面接を通り、4月に「検証ステージ」への採択が決まります。

採択の場で、審査員の一人である事業開発本部の西田部長(仮名)は、こう言いました。

「アイデアはおもしろい。半年後には、施設が本当にお金を払うのかを見せてください」

チームは盛り上がりました。青木さんは、自社の介護食の技術を使った試食セットを用意する。川口さんは、献立と発注をまとめて管理できる画面のイメージを作る。森本さんは、営業部の人脈を頼って、話を聞かせてくれる施設を探す。役割はすぐに決まりました。

ただ、このとき誰も「どんな結果が出たら、お金を払うと言えるのか」を言葉にしていませんでした。

5〜7月:「いいですね」が11件集まった3ヶ月

取引先の会議室で、新規事業チームが試作品を見せ、相手の担当者が満足そうにうなずいている様子

5月から、チームは施設を回り始めます。訪問先は、C社の業務用食品を扱う営業担当からの紹介です。営業担当が「せっかくなので」と同席してくれることも多く、日程はとんとん拍子に決まりました。

訪問の流れは、毎回ほぼ同じでした。まず森本さんがサービスの概要を説明し、青木さんが試食セットを出し、最後に川口さんが管理画面のイメージを見せる。反応は上々でした。

「やわらかいのに、ちゃんと形が残っているんですね。入居者さんも喜ぶと思います」(管理栄養士)

「これは助かります。前向きに考えたいですね」(施設長)

チームは訪問のたびに、共有の表に「好感触」「やや好感触」と記録していきました。7月末の時点で、訪問した12施設のうち11施設が「好感触」。森本さんは、本業の会議の合間にその表を眺めては、少しほっとしていました。

ただ、その裏で、兼務の苦しさもじわじわ効いていました。森本さんは本業で新商品の発売準備を抱え、7月は残業続き。インタビューの記録は週末にまとめて書くことが増え、「何を言われたか」よりも「好感触だった」という印象だけが残るようになっていきます。青木さんも、研究所の試作スケジュールの合間を縫って試食セットを作っていました。

7月末:価格を書いた提案書が、返ってこなかった

7月の終わり、川口さんが一つの提案をします。「11施設が好感触なら、そろそろ有料のトライアルを持ちかけてみませんか」。

チームは、1施設あたり3ヶ月の有料トライアルの提案書を作り、好感触だった施設のうち5施設に送りました。月額の費用も具体的に書き込みました。

ところが、1週間たっても返事がありません。川口さんが電話をかけると、返ってくるのは同じような言葉でした。

「本部に確認しますので、少しお時間をください」

「委託している給食会社とも相談しないといけなくて」

結局、8月の半ばまでに、前向きな返事をくれた施設は1つもありませんでした。

ここでチームは、ようやく1つの事実に気づきます。訪問した施設の多くは、調理と献立づくりを給食会社に委託していました。しかも、施設は複数の施設を運営する法人の一部で、委託先との契約や新しいサービスの導入は、法人の本部が決めていたのです。

チームが3ヶ月かけて話を聞いてきた管理栄養士や施設長は、困っている当事者ではあっても、お金を払うと決める人ではありませんでした。

これが、このチームの1つ目の大きな誤算です。そして2つ目の誤算は、それに3ヶ月気づけなかったことでした。紹介で集めた相手は好意的で、営業担当も同席していたため、「うちでは決められない」という話が出にくかったのです。

8月:審査員の質問と、チームの言い争い

8月、制度の運営事務局が設けている中間面談がありました。森本さんは、「12施設中11施設が好感触」という資料を持って臨みます。

資料を見た西田部長の質問は、短いものでした。

「この11施設のうち、お金を払うと言った施設はいくつありますか」

森本さんは、答えに詰まりました。

「では、施設の中で、お金を払うと決められる人には何人会いましたか」

これにも、はっきりとは答えられませんでした。西田部長は続けます。

「11件の『いいですね』と、1件の『見積もりをください』なら、私は後者を見たい。12月の審査までに、何がそろっていたら次に進めるのか、一度チームで書いてきてください」

面談のあと、チームの中で意見がぶつかりました。

青木さんは、「解決策が悪いわけじゃない。給食会社でも使いやすいように、献立の画面と発注の仕組みを作り込めば通るはず」と主張しました。研究所で試作を重ねてきた青木さんにとって、試食の評判の良さは確かな手応えだったからです。

川口さんは、「そもそも、話を聞く相手が違ったんだと思います。作り込む前に、本部と給食会社に話を聞くべきです」と反論しました。

どちらにも一理あります。議論は1時間たっても平行線でした。

1週間後、2人が持ち帰った話は、同じ方向を指していました。

青木さんが話を聞いた施設長は、録音を止めたあと、こう打ち明けたそうです。「正直に言うと、献立を変えるには給食会社と本部の両方を説得しないといけない。私が動いても、半年はかかると思います」。

川口さんが会えた運営法人の本部の担当者は、こう言いました。「施設ごとに食材の発注がばらばらなのが一番の悩みです。まとめて管理できるなら、本部としては興味があります」。

青木さんは、しばらく黙ってから言いました。「作り込むのは、あとにします」。

9〜11月:検証のやり方を、ゼロから組み直す

新規事業チームが壁に貼った紙に、仮説・確かめ方・判断の基準を3列に並べて整理している様子

9月、チームは検証のやり方を大きく変えました。まず、12月の審査で何を見せれば判断してもらえるのかを、1枚のシートに書き出し、西田部長に見てもらいました。

検証のやり方は、次のように変わりました。

項目 5〜7月のやり方 9〜11月のやり方
話を聞く相手 施設の管理栄養士・施設長 運営法人の本部の担当者、給食会社の責任者
相手の集め方 営業担当からの紹介のみ 紹介に加え、業界の勉強会で知り合った相手や、紹介ページからの問い合わせ。結果は分けて記録
当日の進め方 説明→試食→画面のイメージ 現在の献立づくりと発注の流れを聞く→最後に短く説明。試食は持っていかない
記録するもの 「好感触」「やや好感触」 相手が差し出したもの(次回の日程、社内資料、有料トライアルの検討)
判断の基準 決めていなかった 審査員と合意。「有料トライアルの合意が2件以上で進む」など3段階で設定
兼務の時間 業務時間の2割(実際は週末) 毎週火曜と木曜の午後に固定。上司にも共有

チームはさらに、断られた施設をもう一度訪ねることにしました。訪問の目的は、売り込みではなく「なぜ見送ったのか」を教えてもらうことです。

9月から11月にかけて、チームは運営法人の本部8法人と、給食会社3社に話を聞きました。結果は、7月までとはまったく違う手触りでした。

  • 運営法人8法人のうち3法人が、本部側から次回の打ち合わせを設定してくれた
  • そのうち1法人が、2施設で3ヶ月の有料トライアルに合意した(給食会社が対応できることが条件)
  • 給食会社3社のうち1社が、「自社の栄養士が足りない現場で使いたい」と、見積もりの依頼をくれた

数だけ見れば、7月の「11施設が好感触」より、ずっと少なく見えます。でも森本さんは、9月に書いた判断基準のシートと並べて、初めて「これなら説明できる」と感じました。

もう1つの発見は、給食会社の反応でした。チームは給食会社を「説得しなければならない関係者」と考えていました。ところが、人手不足に悩む給食会社にとって、このサービスは自分たちの業務を助ける道具になりうるものだったのです。

兼務の苦しさが消えたわけではありません。11月には川口さんの本業で大きな商談が重なり、火曜の午後を2回飛ばしました。それでも、曜日を決めていたおかげで、翌週には元のリズムに戻ることができました。

12月:判断材料がそろった審査

12月の審査で、チームが出した資料は、7月の資料よりずっと少ない枚数でした。

1枚目には、9月に西田部長と合意した判断基準。2枚目には、その基準に対する結果。3枚目には、「顧客は施設ではなく、運営法人の本部と給食会社だった」という学びと、7月までの検証で何を見誤ったのか。

審査員からは、やはり厳しい質問が出ました。

「有料トライアルの合意は1件で、基準の2件に届いていない。これは『見直す』ですね」

森本さんは、うなずいて答えました。

「はい。基準どおり『見直す』だと考えています。そのうえで、給食会社からの見積もり依頼という、想定していなかった強い反応がありました。次の3ヶ月は、給食会社に絞って検証させてください。見直しは今回の1回限りとし、3月の時点で基準に届かなければ、このアイデアでの検証は終えます」

審査の結論は、「ターゲットを給食会社に絞り、3ヶ月の追加検証を認める」でした。議論はおよそ20分で終わりました。

審査のあと、西田部長は森本さんにこう声をかけたそうです。「8月の資料より、今日の資料のほうが、ずっと判断しやすかった」。

結果だけを見れば、チームは「合格」したわけではありません。それでも、何が分かっていて、何が分かっていないのか、次に何を確かめれば判断できるのか。それを審査員と同じ言葉で話せるようになったことが、この9ヶ月のいちばんの成果でした。

振り返り:うまくいったこと・うまくいかなかったこと

区分 内容 学び
うまくいかなかった 営業担当の紹介と同席で、好意的な相手ばかりに話を聞いた 紹介で集めた相手の反応は、結果を分けて見る
うまくいかなかった 最初に試食を出し、味の評価ばかりを集めた 自社の強みは、相手の仕事の話を聞き終えてから見せる
うまくいかなかった 困っている人と、お金を出すと決める人を区別していなかった 早い段階で「誰が決めるのか」を確かめる
うまくいかなかった 兼務の時間を割合で決め、記録が週末にずれ込んだ 時間は曜日と時間帯で押さえる
うまくいった 価格を書いた提案書を出し、返事が止まった理由を追った 止まった場所が、本当の論点になる
うまくいった チーム内の対立を、1週間で確かめられる問いに分けた 議論より、小さな検証で決着させる
うまくいった 判断基準を審査員と事前に合意し、「見直す」を1回に限った 審査が「解釈の議論」から「次の一手を決める場」に変わる

自社で取り組むときのチェックリスト

  • 検証を始める前に、「どんな結果なら次に進むか」を判断する人と合意したか
  • 話を聞いている相手が「困っている人」か「お金を出すと決める人」かを区別しているか
  • 自社の強み(試作品や試食など)を見せる前に、相手の仕事の話を聞いているか
  • 紹介で集めた相手と、それ以外の相手の反応を分けて記録しているか
  • 価格と期間を書いた提案を、早い段階で一度出してみたか
  • 「本部に確認します」と言われたとき、誰に何を持っていくかを聞いているか
  • 断られた相手に、見送った理由を聞きに行っているか
  • 兼務の時間を、曜日と時間帯で押さえているか

まとめ

  • 試作品への「いいですね」は、相手が何も差し出していない段階の言葉にすぎない
  • 自社の強みを最初に見せると、相手はその強みの評価者になり、仕事の話が出てこなくなる
  • 価格を書いた提案を出すと、返事が止まった場所に、事業の本当の論点が見えてくる
  • 「本部に確認します」や「見送ります」は、決裁の構造を知るための入り口になる
  • チーム内の対立は、議論ではなく小さな検証に分けて決着させる
  • 兼務のチームほど、検証の時間を曜日で押さえ、集計している数字が「判断のため」かを問い直す

DADAでは、仮説と検証の設計から、インタビュー対象者の集め方、テストマーケティングの実行、審査や経営会議で使える判断材料づくりまでを伴走しています。社内の新規事業の検証の進め方に迷っている場合は、お気軽にご相談ください。

Written & edited byDADA Insights 編集部(株式会社DADA)

スタートアップイベントの企画・運営、新規事業のPoC、BtoBマーケティングを支援する株式会社DADAが編集・発行しています。記事の内容についてのご質問はお問い合わせから、会社の情報は会社概要をご覧ください。

公開 2026.09.22 / 最終更新 2026.10.31

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